天井画に続いて、祭壇側の正面いっぱい描かれたフレスコ画。

Last_Judgement_(Michelangelo)

13.5m×14mという巨大な壁面に描かれているのは、ミケランジェロの描いた「最後の審判」。


前回の天井画に続いて、ローマ法王からの度重なる依頼に、ついに応じたミケランジェロ。この時、すでに60歳を超えていました。

ちなみに、ローマ法王というのは世襲制ではなく、高位聖職者の中から選ばれるので、常に高齢です。前回のユリウス2世の時代はとっくに過ぎ、ミケランジェロの故郷フィレンツェのメディチ家出身のローマ法王クレメンテス7世の思い付きです。

クレメンテス7世は、政敵だったシクトゥス4世が描かれていたペルジーノによるこれまでの壁画が気にいらず、これをすべて取り去って、ミケランジェロによる新しいフレスコ画に変えようと思い立ったと言います。

このクレメンテス7世も、ミケランジェロが仕事を始める前にこの世を去り、実際はその次の法王ファルネーゼ家出身のパウルス3世の下で、4年かけて描いた大傑作です。

「最後の審判」というのは、この世界の終わりに救世主であるキリストが再び現れ、死者もすべて蘇り生きている人ともに、善人は天国へ、悪人は地獄へと最終的な審判のもとに2つに分けられるというキリスト教の考え方です。

この絵の鑑賞のポイントは

まず構図を理解すること。中心で、右手を挙げているのが若きキリスト

キリストの右手側が、天国へ行ける人々で、左手側が自国へ落ちる人々と、まるでキリストを中心に時計回りに動いているような躍動感あふれるダイナミックな構図です。

キリストの後ろにある太陽のような黄色い円があって、コペルニクスの地動説のように宇宙的な構図だとも言います。ちなみに右手の下にいる小さな女性像は、キリストの母、聖母マリアです。

最上段は、右手側には、キリストの受難を表す十字架を運ぶ天使、左手側にも、迫害の象徴である柱と天使が描かれています。

キリストたちのいる雲の下には、中央に最後の時を知らせるためにラッパを鳴らす天使たちがいて、右手には雲の上に登る人々、左側には落ちていく人たち。

最下段も、右側には、これから登ろうとする人たちで、左手には地獄へ落ちていくおどろおどろしい表情の人々。三途の川を渡るための舟も見えます。

2つ目は、全部で314人ともいわれる裸の人間が多く描かれていて、まるで彫刻のように筋肉隆々としている様子。また、どのひとも表情が苦しそうで、まさに終末期という緊張感が伝わってきます。

実際、この裸の人物は、礼拝堂にふさわしくないと大きな議論を呼び起こしました。ただ、教皇庁もミケランジェロに気を使ったのか、20年以上も経ったミケランジェロの死後、ようやく腰布のようなものを上から描かせたのです。現在は修復されて、ほとんどオリジナルの状態に戻されています。

3つ目は、鮮やかなブルー。この色は、当時とても高価な色だったとか。無理強いするローマ法王に対抗して、敢えてこんな高価な色を多く使ったとか。

理由はともかく、美しいはっきりしたブルーと、人間の肌色のコントラストがとても印象的です。

番外編としては、
1.キリストの左側の足元にいる聖バルトロメオ。彼は、殉教のときに皮をはがれたと言われていて、左手に人の顔のような皮を持っています。これが、ミケランジェロの自画像たと言われます。

2.この絵に裸が多すぎるとケチをつけた人物をモデルに、地獄の王さまミノスを描いたと言います。画面に向かって最下段の右端の人物。恐ろしい形相の人々に囲まれ、体に蛇を巻きつけたミノス王、よく見ると蛇に食べられています。よくご覧になってください。

3.ここが実は一番ポイントだと思うのですが、キリストは左手側の人々に右手を挙げて、罰するかのような仕草をしています。この左手に近い人物群の中で一番目立つ白髪の髭の人物は、手に大きなカギを持っています。

キリスト教の絵画では、鍵は天国の鍵を意味し、鍵を持っている人は初代ローマ法王、聖ピエトロというお約束があります。聖ピエトロ大聖堂の聖ピエトロです。どうして彼が左側の地獄に落ちるグループにいるのか?しかも、キリストと向かい合う場所で、まさに右手を挙げて怒られているように見えます。こんなに怒っているようなキリスト像も珍しい。

この絵が描かれたのは、ちょうど宗教改革が起こり、カトリック教会はプロテスタントから糾弾されていた時代(1537~1541)です。カトリック教会の総本山に、この絵を描いたミケランジェロ。いろんな暗号が隠されていると思いませんか?

実際には、この絵の前にガードマンのような係員が数人経っていて、「立ち止まらないように」、「静かに!」とアナウンスを続けていて、大勢の観光客の中でゆっくりじっくり鑑賞という訳にはいきませんが、ぜひ、しっかり見てみてほしい不思議な絵画だと思います。激しいまでの迫力が伝わってきます。

まさに一見の価値あり、世界遺産ですね。