先日、日本からいらしたお客様。絶対ヴァチカン美術館へ行きたいとおっしゃっていたのですが、お話をしているうちに、「システィーナ礼拝堂って何でしたっけ?」と。
そうなんです。ヴァチカン美術館って有名で、ローマのおすすめ観光スポットって、必ずガイドブックのトップに乗っているのだけど、実際よくわからずに行って、疲れて帰ってくる方の方が多いかもしれないくらいです。
以前、イタリアのテレビのヴァチカン特集で、「よく日本人がわかっていない様子でうろうろしている」というような表現をされていましたが、確かに韓国人も中国人もキリスト教徒が多いので、同じアジア人でもキリスト教に関してはずっと詳しいのでしょう。
システィーナ礼拝堂は、ヴァチカン市国にある教皇のための礼拝堂。今だにここで教皇が選出されます。コンクラーベというダジャレのような名前の教皇選出方法で選ばれます。
ヴァチカン美術館と言うのは、もともと歴代の法王の宮殿です。それぞれの教皇が、それまでのヴァチカン宮殿に自分のスペースを建て増ししていったので、びっくりするほど大きく、複雑な構成になっています。
そのヴァチカン美術館の1番端っこ、聖ピエトロ大聖堂に近い部分にあるシスティーナ礼拝堂は、見学コースの関係上、そこだけ行くというわけにはいかないのです。広く長い美術館の素晴らしい芸術品の間をえんえん1時間以上歩いてようやくたどり着けるのです。
で、このシスティーナ礼拝堂って何がすごいの?
せっかく、西洋絵画史上の最高傑作と言われる作品を楽しめるように、私が子供たちに説明するときのような簡単な解説をしますね。
まず奥行きが40.9m、幅13.4mという大きな建物の内部には、わずかの隙間もなく、これでもかといくらい一面に絵が描かれています。
しかも、天井画と正面には、あの天才芸術家ミケランジェロが500年以上前に描いた作品です。
聖書のストーリーを題材にしているので、キリスト教徒ではない日本人にはお手上げですが、世界中で一番信者が多い宗教キリスト教ですから、ほとんどの観光客は描かれているストーリーがわかっているのです。
この天井画の鑑賞ポイントを3つ

右側が入り口で、左が出口側です)
その1、ちょうど真ん中にある「アダムとイブ」。
真ん中にリンゴの木があって、左側は、木に巻き付いた蛇の体をした悪魔が、女性のイブにリンゴを渡していて、右側は、楽園を追放されて悲しみながら出ていく2人。

一枚の絵で、2つのシーンを表しています。リンゴの木の使い方がうまいですね。
その2、「アダムとイブ」から祭壇の方へ向かって2つ目の「アダムの創造」。
古い話ですが、映画「E.T」の指と指を合わせようとしてるジェスチャーのモデルとなったことで有名ですよね。これは、「天地創造の神様が、造り出した最初の人間アダムに息を吹き込む」という情景を表しています。

聖書の有名な記述ですが、このように指から指へ命を吹き込むところを表現したのは、まさに天才ミケランジェロなるところです。彼以前の芸術家には考えもつかなかったデザインで、ミケランジェロ以降は「アダムの創造」といえば、誰もが思い浮かべる定番となりました。
天才ミケランジェロは、この絵にいろいろな寓意を込めていると言われていて、今だに様々な説があります。
その3、「アダムとイブ」から出口むきに2つ目の「ノアの箱舟」
小さくてよく見えないのですが、「アダムの創造」以上にいろんな解釈がある実はとても面白い絵です。
ミケランジェロは出口の方、「ノア」のシリーズから描いていったのですが、描いてる途中で、
あまりにも細かすぎると下からよく見えない。
ということに気が付いて、途中で、デザインを簡素化していったと言われています。
天上中央にある9枚の絵を、順に追って見て行くと、出口から入り口に向かって、デザインが全く変わっていることに気が付くでしょう。天才ミケランジェロでも、こういう間違いもあるのね、と凡人を安心させるエピソードです。
それというのも、実はミケランジェロ、この天井画で画家デビューをしたのです。彼はそれまで、聖ピエトロ大聖堂にあるピエタをはじめとする名作を作った彫刻家です。それから、建築家としても、さまざまな作品に携わっていますが、絵画は、これが初めてだったというのですから驚きです。
歴代の教皇の中でもルネッサンス教皇として有名なユリウス2世のアイデアなのですが、ミケランジェロは自分は画家じゃないからと何回も断ったとか。でも、さすがに教皇の命には逆らえず、ついに承諾して、4年間、たった一人でこの天井画を完成させたのです。ミケランジェロ30歳の時のことです。
当時の絵の具は今とは全く違う天然の絵の具なので、描いてるそばから、顔や目の上に垂れて来て、それをぬぐいながらの作業だったとか。大体、床から20mという高い天井に、足場を組んで登るだけでもう大変。しかも、上を向いての作業なんて想像を絶してしまいます。
ただ、さすがに建築家らしく(?)どこまでが天井で、どこからが壁かよくわからないような3Dのような絵に、いつも感心してしまいます。というか、描かれている人物が、まるで彫刻のように立体的という、そこがまたスゴイのです。
番外編として、入り口側の2枚目の絵も、絶対にお見逃しなく。

「太陽、月、植物の創造」、ということですが、ローマ法王の大切な礼拝堂の天井に描かれた絵とは思えない、何とも奇妙な絵だと思いませんか?これにも寓意が込められているのでしょう。
長くなったので、「最後の審判」については、続きにします。
システィーナ礼拝堂の天井画については、「システィーナ礼拝堂の天井画に隠された、ミケランジェロの暗号」という記事を以前書きました。こちらは、少し詳しく書いています。よろしければ合わせてご覧ください。